第11章 生きるために剣を振れ 【冨岡編 第1話】
「…それでも……義勇さんと一緒にいたい。強くなりたいです。せめて……隣に立てるくらいに」
思わず、胸の内を吐き出すように言った。
義勇は驚いたように目を瞬く。それからふっと視線を逸らし、ほんのわずかに息を吐いた。
「……勝手なことを言うな。危険すぎる。」
拒絶に聞こえる言葉だったが、声色には苛立ちよりも苦しみが滲む。
彼女はそれを感じ取った。彼が自分を守ろうとするあまり、突き放すような言葉を選んでしまったのだと。
「……それでも」
小さく、それでも真剣に、言葉を返す。
「義勇さんに助けられて……私は生きています。だから……少しでも、恩を返したいんです!」
義勇の横顔が夕暮れに染まり、目元にかすかな影を落とした。長い沈黙のあと、低く呟く。
「……お前は……変わっているな。」
それは初めて、彼の口から洩れた微笑のようなものだった。
彼女の胸が熱くなる。傷や恐怖よりも、その一言が心を震わせる。義勇の厳しさの奥に、人知れぬ優しさが確かに存在しているのだと知れたから。
風が通り抜け、疲弊した身体を優しく撫でる。二人の間に漂う沈黙は、重苦しいものではなかった。
ただ、互いの存在を確かめ合うような、静かな余韻だけがそこにあった。