第1章 日輪を翳らす者
「さぞや良い思いをなさったのでしょう。幼君を謀り、貶め、そうして啜った逸楽は女を抱くよりも……っ!」
恨み言ともとれる言葉の最中、不意に頬を痛みが走る。薄らと流れる血の出処はすぐに分かった。今際の抵抗に付けられた引っ掻き傷。とはいえこんなもの、所詮数日も経てば跡形も無く消えてしまう。これが最後の意趣返しであったとばかりに、男の四肢は二度と動くことはなかった。
肉塊と成り果てた男を抱え、腹上死の様をとる。仮にもこの男は、毛利の重臣として長く仕えた武門の出。不名誉な死に様は一族の外には伝わらない筈。
一通り寝所を整え、その場を後にする。苦悦の入り交じった男の骸を記憶から振り払い、主の待つ高松の城へと戻った。