第1章 後宮下女
壬氏が入室許可を得たので中に入ると、赤い髪の美女が柔らかい巻き毛の赤子を愛おしそうに抱いていた。
赤子の頬は薔薇色で、母親譲りの色素の薄い肌をしている。
健康そのもので、今はぐっすり寝ているようだ。
良かった……
「彼の者を連れてまいりました」
「お手数をかけました」
先ほどの崩れた口調ではなく、分をわきまえた言動である。
玉葉妃は温かい笑みを浮かべると、猫猫達に頭を下げた。
「そのようなことをされる身分ではございません」
急いで姐さんが頭を深く下げて言うので、それに合わせて更に深く頭を下げる。
「いいえ。私の感謝はこれだけではありません。やや子の恩人ですもの」
「なにか勘違いなされているだけです。きっと人違いではありませんか」
冷や汗をかきながら、猫猫は一生懸命言葉を選んでいる。
姐さん、頑張れ!!
玉葉妃が少し困った顔をしたのに気付いた壬氏は、ぴらぴらと布きれを見せつける。
「これは下女の仕事着に使われる布だって知っていますか?」
「そういえば、似ていますね」
あくまでしらばっくれる。
「ええ、尚服に携わる下女用のものですね」
猫猫と が身に付けている裳スカートは、壬氏の持っている布と同じ色をしている。見つかりにくいところを狙って使ったので、パッと見分からないが、調べられたら奇妙な縫い目があることが分かるだろう。
壬氏が玉葉妃の前で下女とはいえ女の服を剥ぎ取るという真似をするとは思わないが、しないとも限らない。
姐さんに何かするようなら、それなりの対応はさせて貰おうか…
半歩後ろで私が臨戦態勢に入ろうとしたのに気づいた姐さんは消え入りそうなため息をついた。
「私達は何をすればよろしいのでしょうか?」
玉葉妃と壬氏は顔を見合わせると、肯定の意味でとらえたようだ。
どちらも、目がつぶれるほどの優しい笑みを浮かべた。
翌日、 と猫猫は自分の部屋の荷物をまとめることとなった。
皇帝の寵妃の侍女となったからだ。
まあ、いわゆる出世である。
何が起こるか分からないが……
姐さんは守る…