第1章 1
「あ…ビリヤード…」
全ては 悠美のその小さな呟きから始まった。
今日は景吾の家で、私と景吾、悠美と仁王さんで宅呑みをしていたのだが、ずっと座りっぱなしに体が疼いてきたらしく、悠美らしい提案があった。
せっかくの大晦日にこのメンバーでいるんだから年納めの何かしようよ!!!と。
支度をしたのが夜の22時で、こんなに遅い時間にやることといえば、もう景色を見にいくかカウントダウンで人が固まる現場に行くかしかないと思いながらブラブラ歩いている時にたまたま悠美が見つけてしまったのだ。
ビリヤードを…
もちろんそこにずっと店はあったし、何回も通過したことはあったが、今まで意識にも引っ掛からなかったお店だった。
今、ちょうどマフィアやらスパイやらの漫画を読み漁っている悠美には興味を惹かれるものだったに違いない。
そいういう漫画では、イケナイ作戦会議や、アヤシイ薬のやり取りや、アブナイ情報の交換に使われるような、不健全なイメージがある。タバコもお酒も、露出の激しいお色気レディーもオプションとしてついってくる。実際のお店ってどんな感じなのか気になってしまった。
せっかくの年末最終日。私と悠美だけでなく、景吾と仁王さんの護衛つき。これは…挑戦してみてもいいのではないか…
人生初に挑戦するワクワク感。隣にいる景吾を見つめることでこちらの意思表示をしてみせた。
悠美も仁王さんにやりたい、教えてとおねだりしており、あの雰囲気だと許可されそうである。
「あまり長居はしねぇぞ?」
ため息っと共につぶやかれたその言葉は許可。
悠美と喜んで店に入った。
アニメや漫画と違わず、薄暗い店内。窓一つなく、各ビリヤード台の上に一つずつ照明が置かれており、雰囲気はまんまである。
ワンドリンク制なので、どうせならと雰囲気重視でカクテルを頼んだ。
「で、ルールは知ってるのか、あん?」
「全く分からないわ!!」
景吾の質問に胸を張って答えると、すごく呆れたような顔をされたけど、良いの!!絶対景吾も仁王さんもやり方知ってるから、教えてくれるでしょう?
ワクワクしながらキューを手にしたところまでは良かった。
そこから、まさか大きな問題が発生するとは思わなかった。