第9章 『 小さな葛藤 』
「陸っ奥守……!」
肥前くんが、堪えきれず叫ぶ。
「あんたと俺が引き継ぎしたその次の日からだ」
彼の声は小さく、震えていた。
「急に様子が変わりやがった……何も言わずに姿を消すし……」
肥前くんは歯を食いしばり、拳を強く握る。
「どこにも気配がないと思ったらよ、いつの間にか……」
肥前くんが何かを言いかけてすぐ陸奥守さんの体が、びくりと揺れた。
糸が引かれるように、首が不自然に傾いた。
「……誰かに、操られてる?」
私は、確信する。
これは、霊力の暴走だけじゃない動き。
意思の介入。
――前任の遺したもの。
あるいは、もっと、本丸の奥深くに巣食う“何か”。
「……肥前くん」
静かに、彼へ呼びかける。
「私の後ろに」
「はっ――あんた、何言って!」
「大丈夫です」
自分でも、不思議なほど落ち着いた声がでた。
怖い。
それでも。
(……主として、逃げるわけにはいかない)
そう思うと私は一歩づつ、陸奥守さんへと近づいた。
その瞬間。
闇が、ざわりと、蠢いた。
まるで、“見られている”ような気配が部屋全体に広がっていた。
――この異変は、まだ序章にすぎない。
本能は告げていた。