第3章 『 よろしくお願いします。 』
大広間を出ると、朝の本丸は静かだった。
風に揺れる木々。
遠くで、鍛錬の音。
どこかから漂う、かすかな香。
「……ここ、広いですね」
歩きながら、思わず口にする。
「はい。ですが、現在使われていない区画も多くあります」
「使われていない?」
「前任様が……管理しきれなかった場所、と言うべきでしょうか」
その言葉に、足が少しだけ重くなる。
「……そこに、姿を見せていない方たちが?」
「ええ」
長谷部は、迷いなく歩く。
その背中を見て、ふと思う。
(この人、どこまで知ってるんだろう)
廊下を曲がり、庭を抜け、
人の気配が薄れていく。
「……長谷部さん」
「はい」
「この先は危ない、場所ですか」
一拍。
「主が危険に晒されるような場所には、お連れしません」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
やがて、足が止まる。
目の前には、他よりも少し古びた建物。
障子は閉ざされ、人の気配が、ほとんどない。
「こちらです」
長谷部の声が、低く落ちる。
「ここに――
大広間に出てこなかった刀剣男士の二振が、います」
(……二振、だけ?)
胸の奥が、ざわつく。
「……会えますか」
長谷部は、はっきりと言った。
「主が望まれるなら」
私は、息を吸い――
障子へと、一歩近づいた。