第9章 誰にも触れさせない
窓の隙間から差し込む朝の光が、淡くシーツの皺を照らしていた。
みみは肌にまとわりつくような微かな疼きを抱えたままバスローブの紐を結び、そっとベッドから立ち上がった。
甚「起きたか。」
低く響く声に振り返れば甚爾が壁にもたれ、タバコに火をつけていた。
裸の上半身には爪痕が残り、髪は無造作に乱れている。
それがまた、どこか凶悪なまでに色っぽかった。
「……うん。そろそろ帰らないと……。」
声に出してそう言いながらも、足はなかなか前に進まなかった。
理性ではわかっているのに、昨夜のことを思い出すだけで腰が引ける。
まだ、身体の奥が熱いままだった。
甚「じゃあ、送ってやるよ。うち来てからでも良い。」
「……え?」
甚「朝飯、食ってけ。……勝手に帰すの、癪だしな。」
そう言って甚爾はラフな服に袖を通し、みみの肩を抱くようにして部屋を出た。
エレベーターを降り、外に出たその瞬間だった。
悟「……よう、みみ。朝から随分楽しそうだね?」
その声に、心臓が跳ねる。
目の前に立っていたのは、五条悟。
高専の制服ではなく、私服姿――
それでも、隠しきれない異様な存在感があった。
サングラス越しでも、視線が刺すように鋭い。
「……悟……っ。」
咄嗟に肩をすくめたみみに、甚爾が眉をひそめた。
甚「チッ……やっぱ来やがったか。」
悟「“やっぱ”って、オマエ、自分が何やったか分かってる?」
悟の声は冷えていた。
普段の飄々とした雰囲気はどこにもない。
その裏に、怒りと――
苛立ちと、焦りが滲んでいる。
悟「1晩中、連絡が取れないから探したよ。高専中が大騒ぎだった。」
「……ごめん。でも、わたし、ちょっと1人になりたくて……。」
震える声で答えたみみの肩に、悟の手がすっと伸びる。
その手は強くも優しくもなく――
ただ、無言の圧力を持っていた。