第11章 春日山城
翌日、私は謙信様と道場で手合わせをしていた。
と言っても、謙信様は模擬刀、私は素手なんだけど‥
女中さんにお願いして男物の着物を用意してもらった。流石にこんな小柄な男の着物はなかったから琴葉に切ってもらい、丁度良いサイズになった。
「ふっ‥!」
「はっ‥!」
ひたすらに刀を避け、攻撃をする。それだけなのに、何故か観客がたくさんいる。佐助くん曰く、謙信様の稽古を断らなかった人がどんな人か見てみたいという純粋な気持ちで観に来たそうだ。
「(寝込んでいた分の体力を回復させるには良い稽古だわ)」
謙信様の模擬刀が私の左肩に、私の突き技が謙信様の右肩に同時に当たった事でその日の手合わせは終了した。
「良い時間を過ごせた。褒めてやる」
「ありがとうございます」
「美桜、軒猿に入らないか?」
「(軒猿って確か謙信様の忍びの事よね、佐助くんが所属しているっていう‥)」
考えるまでもなく返事をした。
「いえ、私は入りません。隠密とか性に合わないですし」
「ふっ、そうか。まあ入りたければいつでも言え。明日もこの刻限で会おう」
そう言って謙信様は道場を出て行った。
家臣の方達が一斉に駆け寄って来る。
「あんた、すげーな!あの謙信様と手合わせするだけじゃなく、直々にお声掛けされるなんて!」
「羨ましいぜ!」
春日山に来てわかったこと、ここの家臣は皆謙信様を尊敬している。崇拝と言った方が正しいだろうか。
「なあ!今度俺とも手合わせしてくれ!」
「俺はその体術を教えてくれ!」
次々と誘われ、断れず全て承諾することになった。
「美桜は強いなー」
「お前、武器も持ったらそこらの兵よりも強いんじゃねーか?」
信玄様と幸村が関心していた。
「武器は極力持たないようにしているわ。素手でやり合うからこそ意味がある」
「ふーん、ま、お前のやり方だ。否定しねーよ」
「美桜の体術は美しいよね」
義元さんと佐助くん、琴葉も来た。
「無駄な動きがない。ずっと見ていたいよ」
「ああ、城下で一度見たけど、本当に綺麗な動きだ」
「美桜、また腕を上げたね!私も体術習おうかなー」
「やめとけ、お前じゃ100年かかる」
「幸村、ひどーい」
賑やかな日々になれて来て私達は忘れていた。ここが敵の本拠地であることを。