第11章 春日山城
謙信様が牢に来て気まずい沈黙が続いた。
「(何を話せば‥)」
急に来て頭が困惑していると謙信様が沈黙を破った。
「‥‥信玄達からお前達の事を聞いた。お前があの場で自分の身を守るために素性を偽っていたのは理解はできる‥」
理解はできると言う割に謙信様の顔は曇ったままだ。
「俺も頭がおかしくなった様だな‥お前だけは裏切って欲しくなかったのかもしれん‥‥」
「(この人は過去に裏切られたのかな、それか裏切りに近い事が起きたのかな‥)」
一歩前に出て謙信様の顔を見る。
「敵側の身でありながらこんな事いうのは変ですけど、私は、誰も裏切る事はしません。前にも、言いましたけどね‥」
にっこり笑って言うと、謙信様は憑き物が取れた様に目が澄んだ。
「‥やはりお前は手放したくない‥」
「え、今なんと‥」
聞いている途中で手を掴まれ引き寄せられる。
「(え、?え?何が?‥近い‥。ヤダ、私は家康が好きなのに!)」
なんとか背中を反らすが腰に手を当てられる。
「は、離してください‥」
せめてもの抵抗で声を出すが聞いてくれない。
顔がだんだん近づいてくる。
目を瞑って震えていると美桜の声がした。
「琴葉!!」
「あの時美桜が来てくれなかったらもう、家康にあわせる顔がなかったよ‥」
牢での出来事まで全て話し、色々あったなあとしみじみ思う。
「謙信様は、琴葉の事‥‥なんだ」
「え、なんて?」
美桜の声が途中小声になり聞き取れなかった。
「ううん、何でもない。ギリギリセーフで良かった」
「ほんとにギリギリだったよ‥」
もう夜も遅く、私達はそのまま美桜の部屋で寝る事にした。