第9章 敵陣
身体が鉛みたいに重い、寒気もする。出血したせいか。
でもそんなに血は出てない、いや、今は関係ない。琴葉を救出して織田軍に戻る。正体がバレた以上、なんとしてでも助けないと。クソっ、顕如が喋るから!
なんとか琴葉のいる先頭まで追いつき、謙信がこちらを見る。謙信の腕を掴もうとしたが、信玄に止められた。
「(まずい、この力じゃ太刀打ちできない‥!それに‥息が苦しく‥)」
「ハアッハアッ」
「単騎で細っこいのが乗り込んできたことは褒める。だが、ここまでだな」
謙信に褒められたが、嬉しくない。さっさと琴葉を離せ。そんな思考にしかならない。
「琴葉、を‥離して‥」
なぜだか身体が震えてきた。その異変に気づいたのは私の腕を掴んでいた信玄だった。
「おい、大丈夫か。顔が真っ青だぞ、身体も熱い」
「ハアッハアッ、そんな‥ことより、琴‥葉‥はな‥て」
呂律が回らなくなってきた。もしかしてあの矢に何か仕込まれていたか。
冷静に考えることができず、視界も暗くなってきた。
もう無意識に発していた。
「お‥願い、ころさ‥な‥い‥で‥」
意識を保とうと抗う。
ここで意識をなくしたら、また、あの時みたいになる。
もう、誰も失いたくないのに‥‥!
だが、身体は限界を迎え、私はとうとう意識が遠のいていった。
琴葉の叫びが聞こえた気がした。