第9章 敵陣
(琴葉目線)
謙信になぜか連れ去られ私は今、敵陣のど真ん中にいます!しかも、謙信と一対一で!!
「お前の名を聞いていなかったな。名はなんだ」
「こ、琴葉です」
「琴葉か、覚えておこう」
謙信が喋る度に冷や汗が止まらない。出自がバレないか心配だし、ただの看護で来たと半分嘘をついているからバレそうでヒヤヒヤしっぱなしだ。
「あ、あの!一つお聞きしてもよろしいですか、?」
「なんだ、言ってみろ。俺は今気分がとても良い」
質問を許され、一先ず安堵。でもまだまだ油断はできない。
「(いつ地雷を踏んでしまうか‥慎重にいかないと‥)」
「私はなぜここに連れてこられたんでしょうか?何か意味があるのですか‥?」
「‥‥意味などない。ただ、身体が勝手に動いた、それだけだ。女が戦に来るなど、俺は納得できん」
「(人質とかの理由じゃない、衝動に身を任せた、ということ?いくら軍神とか言われてもこの人もまた1人の人間なんだ)」
敵はずっと怖い人だと思っていたが、勝手な固定概念を持っていた自分が情けないと思った。
「(それぞれ、何か思いがあって戦っている。無意味な殺戮をしている訳じゃない。‥それでも、戦は嫌だ。この人はなんのために戦っているんだろう)」
「謙信、様は何か目的があって戦をしているのですか?」
「‥戦でこそ俺は生を実感できる」
「(今、とんでもないことが聞こえた気がする。戦をすることで生きていると思える?‥そうか、この人は‥‥)」
無意識に謙信様の両手を握った。一瞬手が強張ったが振り払われることもなく、少しだけ握り返してくれた。
「‥もっと、楽しい事を見つけて下さい。戦で生きていると実感することは否定しません。あなたの生き方です。でも、他にも楽しい事はたくさんあります!誰かとお話ししたり、お酒を飲んだり、娯楽をしたり‥‥日常の中でも実感できるようになれば、もっと人生を楽しめると思います‥!」
思った事を全て言ってからハッとした。
「(何を熱く語っているんだろ。‥無意識に自分から手握り締めてるし‥)」
自分の行いに赤面し手を離そうとするが、謙信様にぎっちり握られていて離せない。
「あ、あの、謙信様。手を‥」
「‥‥暫くこうさせろ」
今まで見た姿の中で一番脆いところを見た気がした。この人は決定的に何かが壊れている、そう確信した。
