第5章 安土城城内
(琴葉目線)
「(美桜から可愛い髪飾りもらったし、気合い入れてがんばろ!)」
喝を入れて歩いていると、家康さんが歩いて来るのが見えた。
「家康さん!」
私が呼ぶとウザそうにしながらもちゃんと反応してくれる。ここ最近美桜には内緒で薬にや看護の仕方について、家康さんから教わっている。
「何?用がないなら行くけど」
「(まあ、用がないのは事実‥‥無意識に名前を呼んだからね、)」
そう、私は家康さんが気になっている。寝込んでいる間も忙しい中来て看病してくれたり、手当ての仕方を教わりたいと直談判したらめんどくさそうにしながらも、ちゃんと教えてくれた。
「用が、ないのはそうなんですけど‥ただ姿が見えたから声をかけただけなんです」
私がしどろもどろにいうと頭上からぷっと笑い声が聞こえた。
家康さんも無意識だったのか、気まずそうに目を逸らし、場が少し気まずくなった。
「(今、笑った‥?)」
私の思考は半分途切れて空気がぎこちなくなったことなんてあんまり何とも思ってなかった。
「あんたって、本当に変な女だね。まあ琴葉になら話しかけられても良いけど‥」
「(名前、呼んだ?薬教わってる時とか一度も呼んでくれなかったのに、?)」
私がまた驚いている中、家康さんは話続けた。
「てか、さん呼び良い加減やめたら?あと敬語も」
「そ、そんな急に呼べないですよ、」
「じゃあ呼べるようになるまで道、空けないから」
「(うー、それは嬉しいけどちょっと困る‥今日は針子仲間の人に有名な唐物屋を教えてもらって楽しみにしてたし‥‥)」
「ほら『家康』」
「い、いえや、す」
赤面しながらも何とか言えた私に家康は微笑んだ。
「うん、次から忘れないで」
「(カッコいい!もっと笑ったら良いのに‥こんなのもっと好きになっちゃう)」
「う、うん」
家康が去った後も私は脳内であの笑顔を暫く再生し、女中さんに声をかけられるまで唐物屋に行く事を忘れていた。