第17章 思惑
「平和な世を見たのに、どうして戦のある世にしようとしているのですか?」
疑問だらけだ。人であれば平和な方が良いはず。
「‥お前は五百年後の世を平和だと思っているのか」
「当たり前です。常に戦がある訳ではないのですから」
「あの様な時代は地獄だ。他者の命が軽んじられるような世は来てはいけない。だからここで変える。常に死と隣り合わせの生活なら命の重みを誰しも感じられ、尊ぶ事ができる」
「(この人は未来で何を見てきたの、?確かに自殺者は年々増加している‥‥だからってそれだけではない気がする。‥‥間近で見たのかもしれない。人が人を無意味に虐めるところを‥‥‥)」
帰蝶は明らかに矛盾した言動だ。人の命を尊ぶなら今も尚戦っている兵士や民の命がなくなるのは仕方がないという事だと‥‥?
「あなたは矛盾してます。他にもやり方はあったはずです。‥‥今回の戦で死んでいった者達の命が散る事に抵抗は無いのですか?!」
「‥‥必要な犠牲だ」
それからどう部屋を出たのかわからない。気づけば自室のベッドに横たわっていた。
「(帰蝶の目的は戦乱の世を続けさせる事。‥‥人の命が軽んじられないようにする為に‥‥元就はまだわからないけど利害関係ならあいつも戦のある世を望んでいる。宴が開かれると言っていたけど、誰の為の宴?ここにいる人達の為ではない気がする‥‥とにかく、明日慎太郎さんがここを出る。紙にまとめよう)」
その晩遅くまで私は織田軍宛の文を書いた。
私の安否確認とここにいる間に集めた情報。‥‥そして、みんなに一言ずつメッセージを。
翌日の夕方、とうとうこの日が来た。その日はどうも宴の主賓がやってくるらしく朝から館内は騒がしかった。
「慎太郎さん、これをお願いします」
徹夜で書いた文を慎太郎さんに託す。
「必ず届けます。美桜様、どうかご無事で」
慎太郎さんは音も立てず、夕暮れ時の夜に紛れてその場を去った。
さて、まず一つ目の私のやる事は主賓を見に行く事。
帰蝶達がわざわざ向かいに行っているから相当お偉いさんである事がわかる。
「(恐らくこの主賓こそが一番の黒幕。そいつの人柄を見ておかないと‥‥)」