第17章 思惑
「私はここに潜入してもう、一月程経ちます。‥‥潜入している理由はただ一つ。勅命が下ったからです」
「勅命?!帝から、ですか。何故慎太郎さんご指名で‥‥?」
「実は私は千姫様の古くからの護衛ではありません。私の主は帝です。‥‥主が変わった理由はお話しする事はできません、外部の方に話すなと言われていますので‥‥」
「慎太郎さんが帝の護衛の人だったなんて‥‥帝から命令が下った、つまり帰蝶達はこの国全土を巻き込む大きな事をしようとしている、と言う事ですか?」
「お察しの通りです。帰蝶と元就の目的は‥‥この日の本に終わらない戦乱の世をもたらす事です」
「終わらない、戦乱の世?」
自分の耳を疑ってしまうレベルだ。だが、帰蝶達のこれまでの行動を見ていると辻褄が合う。
「あいつらは織田信長公の城を砲撃しました。今現在、最も天下人に近い信長公の城が破壊されれば信長権力も弱体化した、大名達にそう思わせて各地で反織田軍が反乱を起こしています。実際、元就が反乱軍に武器を調達しているせいで、鎮圧軍は苦戦されていたのをあなたも見たはずです」
「確かに、寄せ集めの反乱軍の割に武器の性能が良かったのを覚えています。‥‥そう、元就の仕業ならおかしくないですね」
「ええ。また近日中に戦が起こるでしょう‥‥‥美桜様は連れ去られたと?」
「正確には自らここに来た、と言った方が良いでしょう。後方に帰蝶達がやって来て私がそちらにつかないと兵達が殺される、私一人が行く事で大勢の命が助かるならと思い、ここに来ました」
「本当に勇敢ですね。怖くはなかったのですか?」
「怖いですよ。身の安全を保証してくれるとはいえ、いつ破られるかもわからない。‥‥でも、目の前で人が殺されるよりかはマシです」
羽織をきつく握る。手が冷たくなっているのが自分でもわかる。
私の冷たい拳に慎太郎さんはそっと手をのせた。
「‥‥無茶しないでくださいね。あなたを大切に思っている人は大勢いる。あなたが死んだら大勢の人が悲しみます。美桜様、ここにいる間何かあったら呼んでください。直ぐに助けに行きます」
「ありがとうございます。心強いです。顔見知りの人が一人でもいてくれて」