第16章 決断
「それがせめてもの詫びだと思っているのですか?」
「ああ。悪いが話はここまでだ」
馬の蹄の音が聞こえた。中々戻ってこない私達を心配して秀吉さん達が迎えにきたのだろう。
「お前には歴史を変える生贄となってもらう」
「何を、言っているの‥‥」
近づいてきた帰蝶に首の後ろを手刀でドンとされ、私の意識はそこで途絶えた。
帰蝶の宣言通り、反乱軍は敗れ撤退。織田軍は勝利を収めたが陣幕に雰囲気は重苦しかった。
「申し訳ございません!美桜様を帰蝶一派に連れ去られました‥」
美桜に庇われた兵達はその時の状況を一部始終説明する。
「お前達の処遇は追って連絡する。‥‥帰蝶め、最初から美桜が目的だったか‥‥」
「そんなっ、美桜っ」
琴葉は青白い顔をしてその場でふらつく。秀吉に支えてもらい、何とか立っている状態だ。
「御館様、如何されますか」
「帰蝶は堺にある商館に身を潜めています。今から追いかけばまだ間に合います」
慶次は帰蝶の商館に潜入していたのもあり、場所や警備の数も把握している。それを聞いて信長はある決断をする。
「‥‥‥一度安土へ戻り、立て直す。向こうの目的が不明な以上、下手の襲撃をして美桜の身が危うくなるかもしれん。まずは情報を集める」
信長も迷っていた。慶次の言う通りこのまま堺へ向かい、美桜を助ける事もできる。だが、幾ら身の安全を保証しようと約束しても所詮は口約束、それも乱世だ。いつ破られるかわからない状況、下手に刺激をすれば殺される事もある。それに帰蝶と元就は手段を選ばない、だから慎重に事を進める必要があった。
皆の思いはただ一つ、無事でいてくれ。それだけだった。