第3章 知らない顔なんて出来ない
「……やめて、ほんとに、今日は無理……っ。」
壁に背を押しつけられたまま、ミクの声はかすれていた。
言葉は拒絶していても、彼女の瞳は彼を見ていた――
怯えと、そして、どこか期待にも似た潤みを湛えて。
伏黒甚爾はその目を逃さなかった。
甚「じゃあ、訊くけどよ。……なんで、そんなに震えてんだ?」
くっと、彼の指がミクの腰のあたりに触れる。
スカート越しに感じるわずかな圧――
それだけで、ミクの身体はぴくりと反応した。
「……違うの、これは……っ。」
甚「違くねぇよ。」
甚爾の声は、低く、確信に満ちている。
あの夜、指がどこに触れれば彼女が喘ぎ、どこに口づければ足が浮くほど震えるか――
すべて刻み込んである。
だからこそ、焦らすようにわざと遠いところをなぞる。
ミクの首筋、鎖骨のあたりに掛かる吐息。
それだけで、彼女の喉がごくんと鳴る。
甚「無理って言うわりに、耳……真っ赤だぞ。」
「や……めてよ、見ないで……っ。」
甚「なんで? 俺はオマエのそういう顔が見たくて、たまんねぇんだけど。」
彼の言葉が唇をすべり落ちた瞬間、ミクの背筋がぞわりと震えた。
暖かい手が、スカートの裾をゆっくりと持ち上げる。
けれど、彼はすぐには奥に触れない。
ただ、布の上からじわじわと指先でなぞる。
「……指っ、やだ、見ないで……。」
ミクの唇は震え、声も抗うように聞こえるのに――
甚「……なのに、ここ……さっきより、熱くなってるな。」
ぴくん、と脚が揺れた。
あまりにも正確な観察に、ミクは息を飲む。
じっくり、ゆっくり、もどかしいほどに焦らされる。
指が直接触れないからこそ布越しの感覚が余計にいやらしく思えて、呼吸はどんどん浅くなっていく。
手を振り払いたいのに、身体は動かない。
甚「ミク、オマエ……もう、自分で気づいてるよな。」
「……な、に……が。」
甚「口と身体、どっちが嘘つきかってこと。」
くつくつと笑いながら甚爾はやっと、布地の隙間から指先を忍ばせた。
「……ッ――!」
直接、触れられる。
ミクの身体が跳ね、息が詰まる。
甚「これで、確かめてやるよ。」
その指先には、もはや一切の遠慮も優しさもなかった。