第21章 誤魔化し
悠仁の声が低くなる。
普段の人懐っこさは消え、男の色が滲み出していた。
ぐるりと、完全に逃げ道を塞がれていた。
彼らは優しさの仮面を脱ぎ理性を剥いで、女を“追い詰める”側へと変貌していた。
悟「次の休憩時間、話あるから。絶対逃げないでね?」
悟の声は甘いのに、命令のような圧を持っていた。
そして悠仁も同じく、にやりと笑って小さく告げる。
悠「……ちゃんと、どこ触られたかも教えてもらうからな。」
2人の執着が交差し女はただ俯いたまま、何も言えずに固まっていた。
昼休みになり、フロア全体が弛緩した空気に包まれはじめる。
しかし、女の心はむしろ緊張で強く縛られていた。
“休憩時間、話あるから。逃げないでね?”
――悟の、あの柔らかな笑み。
けれどあの時だけは、間違いなく“命令”だった。
そして悠仁も穏やかな口調の裏に、静かな怒気のようなものを潜ませていた。
足取りが重い。
手に持ったタブレットが湿るほど掌は汗ばんでいた。
会議室のドアの前に立つと、内側からの話し声が漏れてくる。
聞き取れないほど低く、だが確かに、ふたりの声だ。
軽くノックして、恐る恐るドアを開けた。
「……失礼します。」
そこはいつもと変わらない、シンプルな会議室だった。
なのに空気は異様に濃く扉を閉めた瞬間、逃げ道が塞がれた感覚に襲われる。
悟は椅子に深く腰掛け、頬杖をついて彼女を見つめていた。