第1章 お隣さん
夜も更けた23:00すぎ。
安アパートの壁は薄く、音はすべて筒抜けだった。
伏黒甚爾はベッドに腰を下ろし煙草に火をつけたが、その1本すら吸い終わらないうちに――――――
また、聞こえてきた。
「……んっ……やぁっ……」
女の声だ。
隣の部屋。
声の主は、最近越してきたばかりの若い女。
見かけは清楚系、喋るとおっとりしていて、すぐに頬を染めるようなタイプ。
けれど、夜だけは別らしい。
「……んっ……だめっ、そこ……。」
ベッドの軋む音、指が濡れた何かをまさぐるような生々しい水音。
(……またか。)
甚爾は舌打ちして立ち上がった。
3日連続、いや、今日に至ってはすでに2回目だ。
喘ぎ声は増しているし、もはや“見せつけて”いるようにすら聞こえる。
Tシャツを掴んで無造作に被り、ドアを出た。
深夜の廊下は静かで、隣のドアの向こうだけが熱を持っていた。