第8章 7
─昼休み。烏野高校・裏庭
「…なんだよ、急に呼び出して」
日向翔陽は、呼ばれた場所に現れた
そこにいたのは、赤羽業
「言いたいことがあるんだ。お前に」
「…カルマ、くん?」
カルマは、表情こそ穏やかだったが、声には冷たい棘があった
「─優香に近づくな」
「…え?」
「お前がどう思っていようが関係ない。アイツは俺のだ。触るな。近寄るな」
「…っ!!」
日向の拳がきゅっと握られる。
「そんなの…俺が決める。優香が誰といるか、優香自身が決めることだ!」
その言葉に、カルマの目が一瞬細くなった。
「ふーん。じゃあ、勝手にすれば? ただし─“本当の優香”を見ても、逃げるなよ」
「…?」
(“本当の優香”…?)
その意味を、日向はまだ知らなかった。
夕方:地下室
「…よく来たわね、優香」
黒いロングコートを羽織った女が、優香の前に現れた。
「イリーナ先生…!」
「アンタ、また“甘い目”してたわ。戦いの中にいるっていうのに、男に囲まれて浮かれてんじゃないわよ」
「…先生には関係ないでしょ」
「あるのよ。だって私は、“殺し屋”としてのあんたの師匠だもの」
イリーナはピッと指を鳴らすと、部屋に数体のダミーが現れた。
「再訓練、開始。30秒以内に全て沈めなさい。躊躇したら即終了」
「…了解」
──その瞬間、優香の瞳から“感情”が消えた。
【冷徹・正確・静寂】
足音ひとつ立てずに走り抜け、脳幹、関節、視神経を正確に狙う。
まるで機械のように、敵を“無効化”していく。
イリーナはにやりと笑う。
「そう、それよ。“花崎優香”の本性─“暗殺者の天才”」
息一つ乱れず任務を完了した優香は、無言で先生を見た。
「先生。シロが私の友達に手を出したら、私は…殺す」
イリーナは軽く肩をすくめた。
「当然。私の生徒ならそれくらいしてもらわないとね」
深夜
優香は、屋上の縁に腰かけて空を見ていた
風が髪を揺らし、スマホの画面が光る
📱《カルマ:そろそろ、全部始まる。お前の決断、待ってる》
📱《日向:明日も練習、頑張ろうな! なんか……最近体が軽くてさ!》
「……あんた、気づいてないんだね」
優香は、スマホを胸に抱えて、目を閉じた
(守りたい。でも、殺さなきゃいけないときは──)
ぱちりと目を開けた時、そこには“かつてのE組”で見せた瞳が戻っていた
「……あたしが、全部終わらせる」
