第3章 鬼に稀血
実際にはほんの一瞬の出来事だった。
「応援がすぐに来るから、何処かに隠れてろ。」
実弥はすぐに気を取り直すと仁美にそう言った。
その言葉を聞いて、仁美の顔が暗く歪んだ。
「まっ待って下さい!!置いていかないで!!」
仁美はすぐに実弥の隊服を掴んで懇願した。
一瞬仁美に体を止められた時だった。
仁美の目が大きく開くと同時に部屋の中に鬼の気配がした。
実弥の後ろに先程までの鬼が現れたのだ。
大きく爪を伸ばして背後に立っている姿に、仁美は確信した。
あの爪や牙はこの人間を殺す為にあるのだと。
仁美は実弥が後ろを振り返ったのを見て目を強く瞑った。
想像してしまった惨状を見たく無かったからだ。
その瞬間に部屋の中を強い風が吹き荒れた。
目を瞑っていても聞こえてきた声は大きな断末魔で、鋭利な刃物で肉の切れる音が生々しく聞こえた。
仁美はガタガタ震えながら、両手で耳を覆って蹲るしか出来なかった。
大きな何かが床に倒れる音がして、急に仁美の体を誰かが掴んだ。