第3章 鬼に稀血
本当は知っていた。
実弥が心配だったから仁美に声を掛けた事。
訝しげな顔の後に一瞬見せた安心した顔。
彼はとても優しい人だった。
初めて会った時から。
そう仁美が思っていると、実弥がまた振り返った。
「もっと早く歩けねぇのかよ。」
「…………………。」
威嚇した表情で実弥は仁美に言った。
例え顔が怖くても……。
その後はまたしばらく2人で無言で歩き続けた。
下弦の月が明け方の空に薄っすらと浮かぶと、仁美の目が虚になってきた。
少し歩くペースが落ちた仁美に気が付いて、実弥は後ろを振り返った。
目を擦りながら歩いている仁美に、実弥はため息を吐いて腰を屈めた。
「…ほら。」
仁美は目を擦る手を止めて、自分の前で屈んで背中を差し出している実弥を見下ろした。
「早くしろ!!!」
「…はい…。」
仁美は何も言い返さずに実弥の広い背中に体を預けた。
暖かい体温と、背負わられているのに安定した居心地に、瞼が重たくなるのを感じた。