第3章 鬼に稀血
その夜は珍しく下弦の月が見えていた。
朝方に見える事が多い下弦の月を、仁美は目を細めて見ていた。
「仁美。ゆっくりでいいから出会った鬼達について話してくれないか?」
静かな夜にその声は優しく響いた。
仁美はそう尋ねた産屋敷耀哉を見た。
「はい…。お館様」
仁美はそう言うと少し目を伏せた。
耀哉は決して仁美を急かする事はしなかった。
むしろ仁美の体調を気遣って、時間をかけて様子を見てくれた。
本当はすぐにでも鬼舞辻無惨の事を聞きたいだろうに。
仁美はそんな耀哉の気遣いを分かっていたから、恩のある彼に出来るだけ期待に添えたかった。
最近彼の体調が良くないと聞いている。
顔色は初めて会った頃に比べると遥かに悪い。
今日は比較的体調が良さそうで、彼は綺麗に背筋を伸ばして仁美に優しい顔を向けて座っていた。
「最初私に会いに来る鬼は毎回違う姿でした。」
まだ母親と2人で過ごしていた幼少期からたまに鬼がその家に訪れる事があった。