第2章 輝石の額当て
仁美の手の甲に当たった薬瓶は棚から落ちて、高い音を立てて床で割れた。
「…………。」
仁美の部屋からは離れていたが、天元にはその微かな音が届いた。
天元は目を開けると、聞こえた音よりも微妙な気配の方が気になった。
隣には奥方達が寝息を立ててまだ寝ていた。
この違和感に気が付いたのは天元だけだった。
(ここはお館様の屋敷同様、結界術が張ってあるはずだ。)
だから鬼が入ってくる事は絶対に無い。
そしてこれは鬼の気配では無い。
だけど鬼に近い何かであると天元の五感が言っていた。
天元はすぐに日輪刀を掴むと、その気配の方に向かった。
鬼と呼ぶには微弱すぎる気配たった。
「はっ…!あっ…!」
声の潰れたうめき声が聞こえて、天元はこの気配がその声の主だとすぐに分かった。
「仁美。」
天元が仁美の部屋の中に入ると、仁美は床に蹲って体を大きく痙攣させていた。
仁美の上半身を抱き上げると仁美は口から血を流していた。
ガタガタをぶつかり合っている自身の歯で、口の中を切っていたのだ。