第8章 4枚の婚姻状
あの瞬間世界の全てが変わった。
仁美の目には実弥しか映らなくて–––。
彼が起こす暴風の中、彼の腕の中がとても心地よかった。
月の光の加減も、空気の温度も、全部が実弥を中心に回っているように思えた。
息をすることさえ、彼の存在に支配されていく。
初めて実弥を見た時から、彼の存在だけが仁美の中で特別だった。
「……仁美は不死川が好きなのか?」
「はい…。ずっとお慕いしておりました。」
聞くことすら胸を痛める行為なのに、義勇は最後まで仁美の言葉をしっかり聞いた。
義勇を見る仁美の目は真っ直ぐで、彼は初めて仁美の本心に触れたのだと分かった。
仁美はソッと義勇の頬に触れた。
ピクリと義勇の肩が震えて、彼の顔が悲しそうに歪むと、同じ様に仁美の顔も悲しさに歪んだ。
「義勇様…。私は自分がすべき事がなんなのか分かりました。あなたと夫婦になれる未来はどうか来世で訪れますように…。」