第5章 傲岸不遜の鬼
その鬼は紅梅色の短髪に、顔と体には藍色の線状の模様が入っている。
猗窩座は無限城を歩き、これから地上に出て夜を徘徊する。
「やぁ、猗窩座殿!!」
その陽気な声に猗窩座は立ち止まるが、顔を少し歪めてその声の主を振り返る。
「久しぶりだねー。何年振りだろう。俺ちょっとしくじってしばらく体躯を保てなかったんだよねー。」
そう童磨は陽気な笑顔で猗窩座の前に立った。
童磨ほどの鬼なら、鬼狩りとて深手を負う事などない。
体躯を保てないほどの致命傷を童磨に与える事が出来るとしたら、『あの方』しか居ないだろう。
己の主に罰を受けたというのに、ヘラヘラ笑える童磨に嫌悪感すら覚えた。
猗窩座ならその屈辱に耐えられないだろう。
「ほら、覚えて無い?2年ほど前にあの方が寵愛していた人間の娘。俺逃しちゃったんだよねー。」
「……寵愛?あの方が人間ごときを寵愛するものか。」
童磨の言葉に不快感で猗窩座の顔が歪んだ。
弱くて無価値な人間を、あの方が重宝する訳が無い。
「えー…。本当に覚えて無いの?猗窩座殿も会ったじゃないか。」