第2章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽1〜
翌朝、美鈴はいつも通りの時間に学校に向かった。
昨日の夜のことは、まだ胸の奥で小さく灯ったまま消えずにいた。
だけど制服に袖を通し、いつもの通学路を歩くと、まるで夢だったみたいに思えてくる。
校門をくぐると、通り慣れた廊下のざわめきが耳に戻ってきた。
誰も昨日の夜のことなんて知らない。
親戚のことも、森のことも、中也のことも。
教室に入っても、空気は変わらない。
美鈴は自分の席に鞄を置き、机に教科書を並べながら、窓の外をぼんやりと眺めた。
そのとき、後ろの方で男子生徒たちが集まって話している声がふと耳に届いた。
「なぁ知ってる?昨日、また『羊』が揉め事起こしたらしいぜ」
「あの中原中也ってやつだろ?『羊』のリーダーって‥‥」
「そうそう!マジであいつヤバいよな、ちょっと前までただのガキだって言われてたのにさ」
「いやでも本当強いんだって、異能もやばいし、喧嘩も負けなしだってよ」
美鈴の手が机の上で止まった。
ノートの角を指先でなぞりながら、耳だけが必死に会話を追っていた。
(中原、中也……『羊』?)
小さく胸が跳ねる。
机の下で指が震えて、ペンを持つ手が少し汗ばんだ。
「『羊』ってガキばっか集めてるらしいけど、政府もマフィアも放っとけないんだろ?中也がいるから」