第8章 少女漫画に憧れる準幹部様【番外編】
「ご主人!!お願いがあります!」
勢いよく執務室に飛び込んだ美鈴の手には、分厚い少女漫画。
表紙にはキラキラしたイケメンと赤面する女子高生。
「……嫌な予感しかしねぇな」
机に肘をついて書類を読んでいた中也の眉間に深いシワが寄る。
「この漫画にですね、壁ドンと股ドンっていうのが載ってたんです。ご主人にやってほしくて‥‥」
美鈴は漫画をバッと開いて、目をキラキラさせる。
「は? お前、暇なのか?」
「違いますよ〜〜心の修行です! 」
なぜか胸を張って堂々と美鈴が宣言する。
「お前、どこの少女だよ……」
しぶしぶ立ち上がった中也は漫画をパラパラめくって一瞥すると、コートを翻して美鈴を壁際に追いやった。
「ほら、動くな」
美鈴の横の壁に中也の手が突き刺さる。
顔が近い。息がかかる。
心臓が爆発しそう。
「こういうのが、欲しいんだろ?」
「‥‥やばい、これ結構来ますね」
今度は中也の膝が美鈴の太ももの間に入ってくる。
近すぎる距離で、呼吸が止まりそうだ。
「お前……ほんとにこれで満足すんだな?」
「もう駄目〜〜」
美鈴の頭が真っ白になる。
次の瞬間、力が抜けて見事に気絶して床に倒れ込んだ。
「面倒くせぇ女だぜ、ったく」
中也は気絶した美鈴を肩に担ぎ上げ、執務室のソファにぽいっと横たえた。
美鈴が倒れてから数分後、ソファの上で美鈴がもぞもぞと目を覚ました。
中也は隣の机で書類に目を通しながら、うんざりした顔で美鈴を横目で見る。
「起きたか‥‥気絶してんじゃねぇよ、アホか」
「ご主人、今の最高でした!」
半分寝ぼけたまま、顔を真っ赤にして手を頬に当ててる。
「……は?」
「壁ドンも股ドンも再現度100点−−−いや120点!むしろ現実の方が破壊力!」
ガバッと起き上がった美鈴は漫画をぎゅっと抱きしめて震えている。