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【第二章】ヨコハマ事変篇 〜ひとしずくの願い〜

第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?






「15年間、君だけを見て来た。私にとって香織は一番だ」

頬に触れる指先が震え、香織の頬を伝う涙を太宰の親指がそっと拭った。

「私の初恋は、今でもずっと君だよ」

香織の唇が小さく震え、答えを探すように太宰を見つめ返す。

「太宰君……」

「香織のことが、どうしようもなく愛しい」

言葉と同時に、太宰はそっと香織の手を引いて自分の胸に当てた。
心臓の鼓動が、香織の手のひらに確かに伝わる。

「香織、私とずっと一緒にいてくれるかい?」

太宰の胸に触れた手のひらから、熱い鼓動がじんわり伝わってくる。
香織は小さく唇を噛みしめたまま、太宰を見つめ返すことができなかった。

(関係が崩れることを恐れたり、このまま何事もなく、振る舞おうと思っていたのに‥‥)

香織の肩が小さく震えた。
太宰の胸に置いた手を離そうとしても、太宰の指がそっと覆って、逃がさなかった。

(全部、無駄になってきた)

「‥‥夢みたいな展開だね」

かすれた声でそう零した後、香織は小さく息を吸って太宰を真っ直ぐに見つめた。
少しだけ恥ずかしそうに、それでも笑みを浮かべて

「はい、喜んで!」

太宰が目を細めて、優しく息を漏らす。
その胸元に香織の両手がそっと添えられる。
香織は背伸びをするようにして太宰の胸に手を預けたまま、そっと顔を近づけた。
太宰が一瞬だけ瞼を閉じて、香織の腰にそっと手を添える。
香織の睫毛が触れそうな距離で止まったかと思うと、香織の唇がそっと太宰の唇に触れた。
遠慮がちな、けれど確かに香織の意志で触れた口づけは、二人の間に残っていた不安を溶かしていく。
太宰の指先が香織の背中に回り、柔らかく抱き留める。
香織はぎゅっと太宰の胸元を握り、小さく目を閉じた。
触れた唇が離れる直前、香織の頬に太宰の指が触れ、くすぐったそうに香織が息を漏らす。
ほんのり赤くなった頬のまま、香織はそっと太宰の胸に額を預ける。
二人の影が、公園のベンチに小さく寄り添って落ちていた。







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