第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?
「夢じゃなかったんだねぇ、現実って面白いでしょ?」
「面白くない!!心臓に悪いだけだよ!!」
香織は缶をぐいっと口に当てて、一気にココアを飲み干した。
額に冷たい缶が当たるのが唯一の救いだ。
「で、香織‥‥」
「……なに」
「私の初恋、どうしてくれるの?」
太宰が悪戯っぽく笑いながら顔を近づけてくる。
香織は缶を額に当てたまま、目をぐるぐる泳がせた。
「ど、どうしてくれるって……」
「責任、取ってもらわないと。」
「ひぃっ!」
太宰の顔が近い。
香織は缶を両手で握りつぶさん勢いで、必死に視線を逸らした。
「‥‥太宰君、一つ聞いてもいい?」
香織はベンチに腰をかけたまま、小さく握っていた缶ココアを膝の上に置いた。
太宰は横で腕を背もたれにかけ、視線だけで香織を促す。
「何だい?」
香織は一度だけ唇を噛み、ためらうように視線を逸らした。
そして、膝の上の缶を両手で包み込むと、勇気を振り絞るように太宰を見つめた。
「私は太宰君の中で何番目なの?」
その一言に、太宰の眉がぴくりと動いた。
彼は目を細めて、半分笑ったような顔をする。
「は?」
香織は視線を落とし、唇を小さく震わせながら言葉を続けた。
「太宰君は普通に女の人を口説くし‥‥その、そういう経験をしてるんでしょ?」
言い切った途端、香織の肩が小さく震える。
両手の指先は、缶の表面をぎゅっと押して凹ませそうなくらいに力が入っていた。
「私は太宰君が好き‥‥でも、一番じゃなきゃ嫌だ。こんな私、面倒くさいって−−−」
震える声が途切れた瞬間、隣で太宰の指先がすっと動いた。
ゆっくりと香織の手に触れる。缶ごと、その手を包むように。
「思わないよ」
低くて優しい声が、香織の俯いた頭をふわりと撫でた。
香織が驚いて顔を上げると、太宰は真っすぐな瞳で彼女を見つめていた。
香織の瞳には薄く涙が浮かび、唇が小さく開いた。