第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?
公園のベンチに座る二人の間に、涼しい風が通り抜けた。
香織は自販機で買ったアイスココアを両手で包んで、膝の上に乗せたまま俯いている。
太宰はというと、隣で缶コーヒーを片手に、楽しそうに香織の反応を伺っていた。
「初恋……初恋……」
香織は顔を赤くしながら、意味を確かめるみたいに缶のふちを指でトントン叩いた。
「ちょっと待って、その迷子のお姉さんって……」
香織が思わず横を向くと、太宰が口の端を上げて悪戯っぽく笑った。
「香織だよ」
「……え、は、はあああああ!?!?」
公園の鳩が一斉に飛び立つほどの大声で、香織は立ち上がった。
膝の上から滑り落ちかけたココアの缶を慌てて抱え込み、地面にぶつかる寸前でキャッチする。
「あのときの……りんご畑の……ええええええ!?」
太宰はベンチの背もたれにだらしなく寄りかかりながら、顔の前で片手を振った。
「あの時の君は私に『知りたかったら私を見つけて』って言ったね」
「やめてぇぇぇええええ!!思い出させないで!!あれ意外と私の中で黒歴史なの!」
香織は恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い、その場で膝をカクカクと動かす。
横で太宰はくすくす笑いながら缶コーヒーを傾けた。
「で、そのお姉さんが初恋……」
「そう、初恋」
ドヤ顔で頷く太宰に、香織は顔を真っ赤にしたまま指をぷるぷるさせる。
「いやいやいやいやいや!!待って!!なんで黙ってたの!?もっと早く言えたでしょ!?っていうか太宰君の初恋が私とか一番信じられないんだけど!!」
「うん、面白いから取っておいた」
「取っとくなあああああ!!!」
香織は両手で太宰の肩を揺さぶり始めた。
ベンチがギシギシ鳴って、太宰は楽しそうにされるがまま。
「香織がどんな顔するかな〜って思って、ずっと言わなかったんだよ?」
「私の心臓が持たない!!」
全力で揺さぶられながらも太宰はけろっとしている。
香織は何とか太宰の肩から手を離すと、自分の缶ココアを握りしめて、盛大にため息をついた。
「……タイムスリップとか夢かと思ってたのに……」