第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?
その後、二人はモールを出て、近くの公園のベンチに並んで腰を下ろした。
香織は自販機で買ったアイスココアの缶を両手で包み込み、太宰に体を向ける。
「……太宰君の子供の頃ってどんなだった?」
香織は膝の上で缶をくるくる回しながら、ちらっと太宰の横顔を覗く。
太宰はベンチの背もたれに片腕をかけ、足を組み替えながら、缶コーヒーのタブをカチカチと指で弾いた。
「そうだねぇ……良い記憶はあんまりないけど……ああ、でも一つだけあったかな」
太宰は缶を口元に運びながら、ふっと目を細める。
「昔、迷子のおねーさんと一緒にりんごを食べたんだよ。畑に忍び込んでね」
「え、それって……」
太宰の思い出話に既視感がある。
香織はこの前、自分がタイムスリップした記憶が蘇る。
あの時は夢だと思っていたが太宰の話を聞いて、違ったのだと今ここで気付いた。
(『津島修治』君は目の前にいる太宰君だったってことだ)
太宰は缶を膝に置き直し、香織を横目に楽しそうに口を吊り上げる。
「そのおねーさんはね、僕の初恋を奪って、突然消えたんだ」
香織の口から、缶を握る手から、ふっと力が抜けた。
「初恋か〜……うん?初恋!?」
思わず声が裏返り、太宰の顔をまじまじと見つめる。
太宰はいたずらっぽく眉を上げると、人差し指で香織の額をちょんと突いた。
「そう、初恋」
香織は一気に顔を赤くしながら、両手で缶を抱えてぐりぐり額を押し付けた。
(あの太宰君が初恋……!?しかも私が相手って……何それ!)
太宰は缶を片手に笑いながら、隣で真っ赤になって固まる香織の肩を、くすぐるようにぽんと叩いた。
夏の夕暮れに、香織の心臓は静かに爆発しそうだった。