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【第二章】ヨコハマ事変篇 〜ひとしずくの願い〜

第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?







「「「迷子ぉぉ?」」」

三人の声が見事にハモって、社内の空気が一瞬止まった。
香織は両手をパチンと叩いて、肩の力を抜く。

「太宰君の隠し子じゃなかったんだ」

胸に手を当てて深く息を吐く香織の額には、冷や汗がじわり。
どうやらとんでもなく盛大な誤解をしていたらしい。

「おい、如月。お前の早とちりだったじゃないか」

国木田が腕組みをして、眉をぐっと寄せる。
香織はすかさず人差し指を立てて反論する。

「いやいや、何も知らずにあれを見たら社員の誰もが隠し子だと思いますって」

「ま、まぁ確かにあれを見たら誤解しますよね」

敦が横で気まずそうに苦笑いを浮かべながらフォローする。

「君達、私を何だと思っているんだい」

国木田は眼鏡を押し上げて、冷ややかに言い放つ。

「俺の予定を狂わせる包帯無駄使い装置」

香織も指をポンと立てて続ける。

「貯金をしない駄目男の元マフィア幹部」

「うぐっ!」

国木田と香織の言葉が突き刺さったらしく、太宰は胸を押さえて片膝をつく。

「ハートブレイクしそうだ……」

そんな先輩を哀れに思った敦がフォローする。

「で、でも僕は頭脳明晰な太宰さんに尊敬してます!」

太宰は膝をついたまま、敦に目だけ動かして涙目で微笑む。

「そんなことを言ってくれるのは君だけだよ、敦君‥‥」

香織は呆れながらも、目を横に向けてソファに座る男の子を見た。
その子は、大人たちがどれだけ騒ごうと、ちょこんと座って大人しくしている。

「というかこの子、静かだよね。こんなに騒いでるのに」

国木田がしゃがんで子供の目線に合わせようとしたが、表情が硬いせいか逆効果だった。

「小僧、親御さんとは何処で逸れた?」

国木田の真面目な顔が怖かったのか、男の子の瞳が潤み始めた。
次の瞬間、堪えきれずにポロポロと大粒の涙が溢れた。
香織が眉を下げ、太宰は肩を竦めて国木田を小突く。



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