第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?
「太宰……お前……」
「やだな〜国木田君、この子はね−−−」
「あれ、何かあったんですか?」
絶妙なタイミングで扉が開き、敦が小さく首をかしげて入って来た。
国木田と香織は顔を合わせ、二人同時に無言でうなずくと、獲物を狙うかのように敦に突撃した。
「な、なんですか……」
敦は書類を抱えたまま、後ずさる暇もなく香織に両肩をがっしり掴まれた。
香織は鬼気迫る顔で敦に迫る。
「敦君、太宰君みたいな人になっちゃだめだよ」
「そうだぞ、敦。人として最低限のラインを守れ!あんな大人になるな!」
国木田もメガネをクイっと押し上げて加勢する。
「は、はぁ?」
状況を理解できない敦は目を泳がせるばかりだ。
「だから二人とも−−−」
「敦君、太宰君のほうを向けば分かるから」
香織がそっと小声で耳打ちする。
敦はおそるおそる太宰に視線を移す。
太宰は子供の手を引きながら、にこにこと波風立たぬ笑みを浮かべていた。
「……え?」
敦の顔に、国木田と同じ絶望の色が走った。
「ね、分かったでしょ?言いたいことが」
「で、でも太宰さんに限ってそんなこと……あるかも」
「敦君。今、失礼なこと思わなかったかい」
太宰が軽く眉を下げて笑いかけるが、その手元にはしっかりと男の子の小さな手が絡んでいた。
香織は肩を落とし、隣で国木田はこめかみを押さえて溜息をつく。