第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?
いつものように朝起きて、朝食を食べて、身支度をしてから出勤した。
今日までの報告書を提出して、デスクに座って手を付けていない書類を前にパソコンを立ち上げる。
コーヒーの湯気が目の前に揺れていて、香織は小さく肩を回すとキーボードを叩き始めた。
そんなことをやっている時だった。
『それ』は、まさに唐突にやって来た。
「たっだいま〜」
入り口から気の抜けた声が響く。
香織はタイピングの手を止めて、何気なく顔を上げる。
「おかえり、太宰−−−君!?」
次の瞬間、マグカップを盛大に落としそうになり、慌てて両手で受け止める。
太宰の隣には、しっかりと手を繋がれた小さな男の子がいるではないか。
あどけなく太宰の腕を掴んで、こちらをじっと見ている。
香織は目をぱちぱちさせながら、思考が飛んで口をパクパクさせた。
「な、なななんで!?」
太宰がすっと人差し指を立てて説明を始めようとする。
「ああ、これは−−−」
太宰が説明をしようと口を開くが香織が言葉を遮る。
「国木田さーーん!!!」
太宰の言葉を最後まで聞かずに、香織はデスクを飛び出した。
国木田のデスクに辿り着くと、香織は肩で息をしながら声を張り上げる。
「太宰君がとうとう隠し子を連れて来ました!!」
周囲の空気が止まる。
数人の職員がそっと顔を上げ、国木田が手にしていた書類がぴたりと止まった。
「太宰が隠し子を連れて来るのはいつもの−−−は?隠し子?」
国木田は眼鏡の奥の目をぎゅっと細めると、ゆっくりと太宰の方を見た。
太宰は飄々と子供の頭を撫でている。