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【第二章】ヨコハマ事変篇 〜ひとしずくの願い〜

第6章 時を超えた想い、私はあなたの何番目?







数週間後、香織の姿は雨上がりの墓地にいた。
灰色の空に、湿った風が吹き抜ける。
苔むした墓石に手を添え、香織は膝をついた。
その髪は風に揺れて、冷たい石に一筋の雫が落ちる。

「また来たよ、お母さん‥‥」

香織はそっと指先で墓石をなぞる。
指先に冷たさが移り、どこか懐かしい気がした。

「私ね‥‥異能が使えるようになったよ、まだ完全じゃないけど」

小さく笑って、握りしめていた右手を胸元に当てる。
心臓の鼓動を確かめるように、ゆっくりと息を吐いた。

「ここに‥‥フェージャが来てたんだね、道理で私が来た時に枯れてない綺麗な花束があったんだ」

墓石の前に置かれた花束にそっと手を伸ばし、花びらを指で撫でる。
花の香りを吸い込むと、ひとすじの吐息が白く揺れた。

「ちゃんと愛されてるなぁ」

言葉と同時に、俯いた目元を指先でぬぐう。
泣いてはいないのに、なぜか熱いものが滲んでいた。

「お母さんはお父さんに恋をして、どんな感じだった?」

ふと零れた言葉に、自分で小さく笑ってしまった。
石の向こうから声が返ってくるはずもないのに。

「なーんて、答えないのに聞いちゃった」

小さく肩をすくめて、片手で石に触れたまま、もう片方の手で袴の袖をそっと整えた。

「私はまだまだ甘いんだなって思う時がある。だからもし見守っててくれるなら−−−」

香織は墓石の上にそっと手を重ね、まるで母の手に触れるように指先をすり合わせた。
ゆっくりと目を閉じて、風に髪を揺らした。

「次にここに来るときは、もっと胸を張って話せるようにするね」

小さく口元を引き締めて、指先で墓石を二度叩くと、立ち上がる。
少しだけ背筋を伸ばしたその瞳には、今度は確かな光が宿っていた。
香織は小さく頭を下げると、墓前に一輪の花を置いて背を向けた。
風が、彼女の背をそっと押した。




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