第2章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽1〜
(頑張って修行して、勉強して、頑張ってたのに‥‥もう嫌だ‥‥こんな世界‥‥このまま死んでしまえれば‥‥どれほど楽か)
「もう、頑張るの‥‥辞めようかな、そうすればもう‥‥」
「誰か居るのか?」
「人の声?」
これが私とご主人の出会いでした。
私が生きるのを諦めかけた時、声を掛けられたのです。
「何かあったのか?」
「え、ええ」
今でも覚えている。
私はちゃんと返事が出来なかった。
「ガキがこんなところでほっつき歩いてたら攫ってくださいと言っているようなものだろ、家まで送ってやる」
「か、帰りたくない‥‥です」
「家があるってのは当たり前のことじゃねぇ、帰りたくないかもしれねぇが一人くらいは手前の心配する奴がいるだろ」
「あ‥‥」
私は忘れていた。
誰もが私を蔑んでも、裏で悪口言われようとも、お父さんやお母さん、柚鈴が私の心配をしてくれる。
才能とか関係なしに手を差し伸べてくれる。
(馬鹿だなぁ、私‥‥)
「あ、あ、あり、が、、とう」
この時のことを覚えている。
嬉しい気持ち、恥ずかしい気持ち、ご主人の優しさ−−−そう、私は初めて恋をした。
そんな甘酸っぱい初恋の思い出。
そして、最悪だった出来事を忘れさせてくれた。
幸せの時間だった。
「じっとしてろ」
低く囁く声が耳元に落ちてきて、美鈴は思わず肩をすくめた。
「え、え!?」
戸惑う間もなく、腰に回された腕がするりと引き寄せてくる。
不意に体がふわりと浮いて、思わず中也の胸元にしがみついた。