第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
『そのくらい知ってるわ、何だかご主人と関わっていくうちに貪欲になっていく気がする』
弥生はふっと笑い、頬杖をつきながら少し遠い目をする。
「欲望で身を滅ばさないようにしなさいよ」
『そんなヘマしないわ!』
「ふふ、ならいいわ」
弥生は小さく笑って立ち上がり、電話線を肩に引っ掛けたまま台所の鍋に目をやる。
「高校行かないんでしょ?手続きしておくわ」
『ありがとう、お母さん!』
「マフィアに入ったことは私からお父さんに伝えておくから、これからも頑張りなさいよ』
『また政府に駆り出されてるんだ。私がマフィアに入ったことを聞いて失神しないといいけど‥‥』
弥生は思わず小さく吹き出し、鍋の蓋を開けて中をかき混ぜた。
「ふふ、お母さんは夕飯の支度しないといけないから切るわね」
『うん、じゃあね』
電話を切った弥生は小さく息を吐き、吹きこぼれそうな煮物を火から下ろす。
「……マフィアの娘かぁ……またれー君を慰めないとなぁ」
誰もいない台所で弥生は少しだけ、くすくすと笑いながら味噌汁の出汁を取った。
先程のような楽しそうな表現とは違い、弥生は浮かない顔をする。
(この子には、この子の道を進んで欲しい。けど……)
弥生は震える手を静かに握りしめた。
今はまだ、黙っていよう。
明日か、明後日か、遠くない未来に必ず伝えなければならない。
(私の一族について話さなければいけないわね)