第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
弥生はリビングのソファに腰を下ろし、受話器を耳に当てたまま、緩く笑っていた。
窓の外には夕暮れの茜色が差し込み、キッチンでは煮物の香りがふわりと漂っている。
「そう、ポートマフィアに入ることになったのね」
受話器の向こうで、美鈴の弾んだ声が響く。
『うん!私、ご主人の傍に居られるって思うとどんなことがあっても頑張れるわ!』
弥生は小さく息を吐き、膝の上で受話器を握る手に力を込めた。
「良かったわね、夢が叶って」
声には出さなかったけれど、内心では思わず苦笑いを零す。
(まさか娘が政府でも警察でもなく、マフィアの門を叩くとは‥‥れー君が聞いたら卒倒するわね……)
『お母さん、私の夢はちょっと違うかな』
「え、違う?あなた中也君の傍に居ることじゃないの?」
思わず首をかしげて聞き返すと、電話の向こうで美鈴がくすくすと笑った。
『それもそうだけど私の夢はご主人との『恋のABC』をやることよ、もっと言うならDEFまで行きたいわね』
弥生は思わず吹き出しそうになり、慌てて口元を手で押さえた。
「はぁ?あなたその意味ちゃんと分かってる?」
『分かってる分かってる』
「はぁ……」
弥生はソファの背にもたれ、天井を仰いだ。
可愛い娘が、よりによってマフィアで恋だなんて‥‥
(父親が聞いたら泣くわね……いや、泣くどころじゃ済まないか)
「長い旅になるわよ、それ」