第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
中也は帽子をくいっと指先で直しながら、横を歩く美鈴に小言を漏らす。
「お前なぁ……姐さんには頭が上がらねぇんだから、二度とケンカ売るんじゃねぇぞ」
「ご主人の命令なら仕方ありませんね‥‥でもが、ご主人が止めに来なかったらあの時−−−」
「言い訳すんな」
「……あの、私をマフィアに入れてもいいんですか?」
美鈴は俯いたて、ぎゅっと手を握りしめている。
「私はご主人に負けました。つまり、弱いんです。これでも頑張ったほうなのですがね……」
「……バカか、手前」
美鈴ははっとして顔を上げる。
中也は苛立たしげに息を吐き、ゆっくりと美鈴に視線を向ける。
「……え?」
「負けたとか、弱いとか……そんなの知るかよ」
美鈴の視線と中也の視線が、真っ直ぐにぶつかる。
「手前は手前のままでいいんだよ」
静かに吐き出された言葉に、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
美鈴は小さく目を見開き、思わず口元を押さえた。
「……ご主人……」
「泣くな、面倒だ」
ぶっきらぼうに背を向ける中也の後ろで、美鈴は小さく震える息を吐いた。
その胸の奥に、小さな火が灯る。
そんなやり取りをしていると、廊下の奥からふらりと現れる黒いコートの男。
ポケットに両手を突っ込み、薄い笑みを浮かべている。
「あれぇ?中也じゃないか。珍しく子猫ちゃんを連れてるねぇ」
「……げっ!!」
中也の顔が即座に険しくなる。