第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
二人が向かったのは、紅葉の部屋。
扉の前に立つと、中也が指で『いいか?』と目で合図する。
美鈴はコクリと頷く。
それを見た中也が扉を開けると、紅葉椅子に座って、お茶を啜っていた。
紅葉はふわりと笑みを浮かべ、美鈴と中也をちらりと見た。
「おや、中也……それに美鈴。何の用じゃ?」
「……姐さん、こいつが謝りたいことがあるそうです」
中也が半ば無理やり美鈴を前へ押し出す。
美鈴はぺこりと頭を下げた。
「攻撃して、怪我をさせてしまい、申し訳ございせん」
美鈴は紅葉に近寄り、包帯の巻かれた紅葉の腕にそっと手を添えた。
「……お主、何をする気じゃ?」
「私の異能は治療も出来るんです。元々この傷は私が付けたものですから私が治すのが筋でしょう」
美鈴の掌から微かに淡い桜色の光が溢れた。
花弁のような光がゆっくりと紅葉の腕を包み込む。
紅葉は驚いたように目を伏せ、そのまま何も言わず腕を差し出す。
光の花弁がゆっくりと包帯の中に入り込み、肉の奥に潜む切り傷や裂傷を縫うように結び直す。
「……妙な力じゃ」
美鈴は顔をしかめつつも、手のひらに力を込める。
もう一度、花弁が溢れ、紅葉の肌に新しい桜の香りが漂った。
「これで大丈夫です」
美鈴が息を整え、そっと手を離すと紅葉の腕の包帯の下にあった傷はほとんど綺麗に塞がっていた。
紅葉は腕を動かし、確かめるように屈伸させて、満足げに小さく笑った。
「ふふ、礼を言おうかの、美鈴」
「いえ、私が勝手にやったことですから」
「謝罪と癒し‥‥確かに受け取った。中也もお主も、これで貸し借りなしじゃ」