第4章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽3〜
「今の戦いで分かった。お主か、中也が言っていた娘のことは」
紅葉は艶やかに着物の袖を唇に当て、くすりと笑う。
その横で、能面を被った金色夜叉が無言で刀を持ち直した。
「ご主人を知っているのね、あんたとはどんな関係なのかしら?」
美鈴は刃の先をわずかに揺らし、にじり寄る。
息を整えながら、胸の奥で鳴る心臓の音を無理やり抑え込んだ。
「ただの上司じゃ」
「ところで、お主は中也に会いに来たのかえ?」
「まぁそんなところね」
(本当はひと目見たかっただけだけど)
紅葉の視線を受け止めながら、美鈴は刀を握る指にぐっと力を込める。
桜霞刀の刃が、わずかに光を帯びた。
「あんたはマフィアの人間で地位が高そうだし、私を殺すつもりよね、知ってるわよ、マフィアに攻撃した者はただじゃ済まないって」
美鈴は息を吐き、その吐息に乗せるように小さく笑った。
肩の震えを振り払うように、刃をわずかに傾ける。
「でも、私はここで死ぬ訳には行かない。だから抗わせて貰うわ」
言葉と同時に、地面を蹴る。
美鈴の身体は一瞬で裂き、紅葉へと迫る。
金色夜叉が刀を振り抜き、美鈴の胴を真一文字に斬ったかに見えた。
しかし、斬られた美鈴の身体は音もなく桜の花弁へと変わり、宙を舞った。
「な!?」
紅葉の目が細められる。その隙に、美鈴の後方に現れた花弁が再び形を成し、彼女の手の中に刀を残した。
美鈴は反転し、すぐさま桜霞刀を逆手に構えると、一気に投げ放つ。
桜の尾を引く刃が金色夜叉の胸を貫き、そのまま壁に縫い付けるように突き刺さった。
金色夜叉は無表情のまま、僅かに体を揺らすが、壁に封じられ動けない。
「……!」
美鈴は迷わずもう一度、指を鳴らす。
再び桜の花弁が渦を巻き、新たな刀を形作る。
「これで!」
刀を握り直し、紅葉の喉元めがけて駆け込む。
「っ!」
鋭い風を裂く音と共に、美鈴の前に何かが飛び込み、桜霞刀の刃を弾き飛ばした。
火花が散り、刀が地面に転がる。
美鈴は咄嗟に数歩引き、呼吸を荒げながら前を睨んだ。
そこには、紅葉を護るように立つ新たな人影がいた。