第3章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽2〜
私が目を覚ましたときには、すべてが終わっていた。
拠点の埃の匂いは消え、私が知っている『羊』はもうどこにもなかった。
ご主人は『荒覇吐』の情報を得るために、ポートマフィアと手を組んでいたらしい。
私には知らされなかった大きな取引。
でも、それは『羊』のためでもあったのだとか。
けれど『羊』の仲間たちはそれを信じられず、『GSS』という組織と手を組んでご主人に牙を向けた。
『羊』と『GSS』が手を組んだことで、マフィアにとっては見過ごせない脅威となった。
マフィアの首領−−−森鴎外。
無慈悲なその男は、両方まとめて根絶やしにすることを選んだ。
結果、『羊』の拠点は焼け落ち、仲間たちは捕えられた。
私たち構成員は未成年で、表立った処分はされなかったけれど代わりに、それぞれバラバラに引き離されて、ポートマフィアの監視下で生きることになった。
もう、あの頃の『羊』はどこにもいない。
でも、私の心の中にだけは、あの人の背中だけはまだ燃えるように残っていた。
そこから私の生活は一変した。
何もかもが灰になったあの夜から私は強さに固執するようになった。
失ったものを数えて泣いている暇なんてなかった。
もう二度と誰かに奪われないために、裏切られないために。
何より、あの人の背中に追いつくために。
学校に行っても、教科書の文字は頭に入らなかった。
机の下でこっそり握りしめていたのは、教科書じゃなくて重くなった拳だった。
家に帰っても、笑って夕飯を囲むだけの子どもじゃいられなかった。
誰もいない自室で夜通し拳を握りしめて、膝を突いて、何度も立ち上がった。
弱さを恥じて、泣きながら誓った。
もう二度と、何も奪わせない。
私の小さな手は、もう子どもの手じゃない。
いつか必ず、ご主人の隣で胸を張れるその日まで−−−