第3章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽2〜
境内に吹き抜ける夏の風が古い社の白い幕を揺らす。
砂利の上に、玲夜と美鈴が向かい合って立っていた。
「行くぞ」
玲夜は組んだ腕を解き、静かに足を開いて構えを取る。
弥生は鳥居の柱に背を預け、のほほんとお茶をすすりながら二人を眺めていた。
「柚鈴は?見ないのか?」
玲夜が軽く顎をしゃくると、弥生は小さく肩をすくめる。
「用事があるんだって。友達とカラオケ行ってくるって言ってたわ」
玲夜は小さく鼻を鳴らし、視線を美鈴に戻した。
美鈴は息を吐き、小さな桜の花弁を模した手裏剣を異能で作る。
中也に教わった手裏剣の要領で指に挟み、構える。
玲夜の足元にふわりと影が揺れる。
次の瞬間、玲夜の足元から境内の砂利に沿って薄く光の筋が走り、空気がわずかに振動した。
「……封鎖領域(ロック・バリア)」
玲夜の声が低く響くと、二人を包むように空気が澄んで、逆に重たく締めつけられる。
木々がざわめきを止めたように、境内だけが切り取られたかのような静寂に沈んだ。
美鈴は息を詰め、桜の手裏剣を玲夜に向かって一気に放つ。
花弁の形をした手裏剣が空気を裂き、玲夜の頬をかすめた。
(当たらない!)
すぐに駆け込む。
体を低くし、横に滑り込むように玲夜の死角を狙う。
中也に教わった体捌きが、頭の奥に焼き付いていた。
だが玲夜の足が一歩、静かに踏み込んだだけで、封鎖空間が美鈴の動きを押さえつける。
足首に重りを巻かれたように、一歩が鈍る。