第3章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽2〜
「はいはい、そんなにプンプンしない!娘の恋路を邪魔する人は嫌われるわよ」
弥生がくすっと笑いながら玲夜の肘を小突いた。
玲夜は苦々しげに小さくため息をつくと、眉間を押さえて視線を逸らした。
「美鈴、あなたは好きなことをやりなさい。お父さんはこう言ってるけどあなたと同じ、自分を突き通す人だからね」
弥生は優しく笑いながら、美鈴の肩にそっと手を置いた。
その手は小さくて柔らかいのに、言葉よりも温かさが真っ直ぐに伝わる。
「なるほど、お母さんがお父さんに惚れたところはそこか〜〜」
「もう!柚鈴ったら!」
弥生は小さく肩をすくめ、娘の頭を優しく小突いた。
柚鈴はくすっと笑って頭を撫でながら美鈴を見た。
「でも、良かったわ。本当はあなたのことが心配だったの」
美鈴の肩を掴む手が、そっと力を込める。
「何も欲がないし、好きなこともない。そんな美鈴が夢中になれることを見つけて、嬉しいわ!」
弥生はにこっと微笑んで、握った手をそっと離した。
玲夜は黙ったまま、小さく目を伏せている。
「跡取りに関しては心配しないで、あなたは自分の進む道を切り開きなさい」
「ありがとう、お母さん」
「頑張ってね、お姉ちゃん!」
柚鈴は勢いよく身を乗り出し、美鈴の背をぱんっと軽く叩く。
美鈴はくすっと笑って小さく頷いた。
そのとき、玲夜が腕を組み直し、低い声で呟いた。
「美鈴」
玲夜の目が鋭く、美鈴を捉える。
「明日は休日だ。擂鉢街に行くのだろう?その前に俺と手合せをしろ」
玲夜の視線がわずかに笑っているように見えた。
美鈴は一瞬だけ驚いたように目を丸くして、すぐに小さく拳を握った。
「うん!」
その小さな返事に玲夜はわずかに頷き、組んだ腕をほどいて立ち上がった。
(お父さんと手合せするなんて初めてだ。数えるくらいしか修行していないからどんな風に仕掛けて来るのか分からない)
美鈴の心臓が小さく跳ねた。
けれど不思議と怖くはなかった。