第3章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽2〜
「だから『羊』に入って、学校が終わったら毎日、擂鉢街で修行してる」
空気が静かに凍る。
遠くで時計の秒針だけが小さく響いていた。
玲夜は低い声で問いを重ねた。
「……中原中也に、何を教わっている?」
「体術……護身……喧嘩の仕方……全部」
美鈴の声がひどく幼く響いた。
でも、その奥にある決意は、あの夜泣いていた自分とは違うものだった。
「美鈴‥‥」
弥生が呼びかけた声は、泣きそうに掠れていた。
玲夜はゆっくりと目を細め、机の端を指で叩いた。
重い沈黙の中で、低く言葉を吐き出す。
「なるほどな。お前が『羊』に入ってる理由は分かった」
静かな声だったが、その奥に何かが張り詰めていた。
「だから私は神社を継ぐのを辞退する。それと、私のやりたいことについては口出ししないで」
美鈴は座卓の縁に置いた両手をぎゅっと握りしめた。
視線はぶれない。
声は震えたが、目だけは真っ直ぐに玲夜を捉えていた。
「‥‥駄目だ」
玲夜は低く吐き捨てるように言い、膝の上で組んだ指を強く握り直した。
眉間の皺が深く刻まれ、視線は鋭いまま微動だにしない。
「あら?いいじゃない」
弥生は玲夜の横で、苦笑するように小さく肩をすくめた。
「しかしだな、弥生」
玲夜が苛立ったように小さく舌打ちし、弥生は玲夜をちらりと睨み、わざとらしく肩を叩いてみせた。
「だって美鈴が『やりたいこと』を見つけたのなら親として応援してあげなきゃ!それに、あなただってやりたいことやってるじゃない」
玲夜が言葉を詰まらせ、顎を引いて美鈴と弥生の間を見比べる。
柚鈴はそんな玲夜を横目に見ながら、少しだけ唇を尖らせて腕を組んだ。
「お父さんは神主歴が短いし、そんな人がお姉ちゃんのことをとやかく言う筋合いないよね?」
「柚鈴!口を慎め!!」
玲夜が鋭く声を上げると、柚鈴はわざとらしく両手を上げて肩をすくめた。