第3章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽2〜
「私は一年前、やりたいことが見つかった」
美鈴は小さく深呼吸をして、ようやく顔を上げた。
弥生が驚いたように眉を上げる。
「やりたいことだと?」
玲夜の目がわずかに細まる。
美鈴は震える指先を膝の上で握りしめ、でもそのまま言葉を続けた。
「『羊』に所属してご主人みたいに強くなって傍にいたい」
「だから私は一年前、『羊』に所属して学校終わりに修行してる」
息を吐き切った美鈴の肩が小さく震えた。
玲夜の眉間に深い皺が寄る。
ゆっくりと背もたれに身を預け、低く言った。
「待て、ご主人というのは誰だ?」
美鈴は視線を玲夜から逸らさず、指先を膝に押しつけて答えた。
「中原中也。政府と関わっているお父さんと柚鈴なら聞いたことがある名前でしょ」
「『羊の王』‥‥中原中也。『羊』のリーダーでヨコハマ租界近くにある擂鉢街を縄張りとしているって聞いたことがある」
柚鈴が知っている情報を口に出す。
美鈴は視線を逸らさずに続けた。
胸の奥の鼓動が痛いほど早いのに、不思議と声だけははっきりしていた。
「ずっと、私は何の役にも立たないって言われてきた」
頭の中に、あの日の親戚たちの声が蘇る。
笑われる妹と比べられる自分。
異能があっても使い道がないと嘲られた自分。
「でも、ご主人に出逢って……私、変わりたいって思った」
「強くなって、役に立つ人間になりたい。もう、笑われたくない!」
震える拳を膝の上でぎゅっと握る。
玲夜は無言のまま、美鈴を見ていた。