第2章 青の時代 〜忘れられないあの日の思い出 𝓟𝓪𝓻𝓽1〜
「は?お前みたいなガキが何を言って−−−」
「私……強くなりたいんです!」
中也の言葉を遮るように、美鈴は声を張った。
自分でも驚くくらい、喉が震えているのがわかる。
「昨日、助けてくれたときに中也さんは、私が怖かった場所を簡単に越えて、私にはできなかったことを……」
涙が出そうになるのを堪えて、ぎゅっと袖を握りしめた。
「私も強くなりたいんです!もう誰にも笑われたくない!何もできないって言われたくない!」
声が震えて、最後の言葉は小さくなった。
それでも中也から視線を外さなかった。
「だからお願いです私を『羊』に仲間にしてください!」
路地の奥で、遠くの波の音がかすかに響いていた。
中也の視線がゆっくりと美鈴を捉えたまま、月明かりに光っていた。
冷たい夜風の中で、美鈴の声が途切れた。
頬に吹きつける潮の匂いと、遠くで鳴る波の音がやけに大きく響いていた。
中也は美鈴を見下ろしたまま、しばらく何も言わなかった。
ポケットの中の手を一度出すと、少しだけ空を仰ぐ。
「……はぁ」
深いため息が漏れた。
それから中也はゆっくりと視線を美鈴に戻すと、わずかに口角を上げて鼻で笑った。
「馬鹿かお前、『羊』がどんなとこか分かって言ってんのか」
冷たい声だった。
けれどその目はどこか、少しだけ笑っているように見えた。
美鈴は俯きそうになる顔をぐっと上げて、震える声を絞り出した。