第5章 堕ちる
《side 雅》
『指、ちょーだい』
「…………」
なんだあれ。
莉央ちゃんが出て行った襖とくっきり歯形のついた薬指を眺めて放心。
噛まれた薬がじんじんする。
滲んだ血液を舐めれば。
何故だか甘い味がした。
「ああああッッくっそいってぇぇ!!」
こんなんもう。
無理だろこれ。
いや。
これ死ぬわ。
間違いなく。
————一週間後。
「暁と仲直り出来た?」
いつものように電車に揺られていれば。
こちらに視線は向けずに莉央ちゃんが、珍しく声をかけた。
「…………相変わらず重症人でも人使い荒いよ。汚れ仕事ばっかよくもまぁまわしてくれちゃって。おかげで毎日へとへとですけど」
「ふーん」
「…………」
話題振ったくせに興味なさそうにすんのなんなん?
暁さんといい莉央ちゃんといい。
血は争えないなぁ。
「莉央ちゃんは?」
「別に」
なんだろなぁ。
温度差。
あ。
…………違うか。
耳。
真っ赤じゃん。
「…………煽ってくんのほんとやめて」
「え」
小さくボソッと呟いた言葉は。
満員電車な中、届くことなくホッとした。