第2章 情緒
「夜まで帰んなければ、GPSの位置情報が変なとこだったら、おまえが絶対来ると思ったんだよ!!」
「莉央ちゃん位置情報ずっと自宅だったよ?」
「スマホ!忘れたの!」
「ほんと抜けてるよね莉央ちゃん」
さら、って。
手の甲が頬を掠める。
ああもう。
動かない身体がもどかしい。
「俺に見つけて欲しくて、こんなことしたんだ?」
「柳瀬が…………っ、いないからっ。悪いの全部おまえなんだよ!!」
「どうせいざとなったら殴って逃げるとか思ってた?」
「…………」
「いくら莉央ちゃん普通の女の子より強くても男2人にかなうわけないじゃん。薬なんか盛られて。ほんとバカ」
「柳瀬がウザいくらいまとわりついてたらこんなんなってない」
「そうだねごめん」
怒ってんのに嬉しそうなの、まじ腹立つ。
ああほんと。
情緒だよ。
情緒。
…………まぁでも。
身体だるいし手痛くて動かんから。
首から上だけ動かして。
頬に触れる柳瀬の右手にキスをした。
「莉央ちゃん…………?」
「いいよ、もう」
どうせもう。
逃げらんない。
「おまえが追って来なくなる方があたしは怖い」
逃げても逃げてもどこだって追ってくるのに逃げ道なんてあるわけない。
ただ怖いのは。
「おまえが、いなくなる方がやだなって、今思った」
鉛みたいに重たい左手を、動かして。
柳瀬の前髪を掴む。
「柳瀬がちゃんと戻って来てくれたなら、右手の痛みもレイプされかけた事実も無駄じゃないって、今思った」