第9章 誕生日
《side 雅》
幸せ。
目を覚ますと隣に莉央ちゃんがいて。
かわいい寝顔晒して夢の中。
悪戯にほっぺたぷにぷに人差し指でむいむいすれば。
「んん」
変な顔して歯ぎしりしてる莉央ちゃんも。
寝てる途中。
ニコォって、どんな夢見てるか気になるくらいの笑顔晒す莉央ちゃんも。
「…………みやび」
寝言で名前呼んでくれちゃう莉央ちゃんも。
大好き。
幸せ。
人生できっと1番満ち足りた時間。
初めて感じた幸せ。
だけど時々思う。
幸せな時間が長ければ長いほど。
続けば続くほど。
失うことを、考える。
今のこの満ち足りた時間のことだけを考えてればいいのに。
失ってしまった後のことを、考えずにはいられない。
今あるこの幸せを。
信じることができない。
心底この思考(頭)に、嫌気がさす。
「…………ん」
隣で莉央ちゃんが、身じろぎして。
うっすらと瞼が、動く。
何度か瞬きをした後、ようやく視線がぶつかった。
「…………柳瀬」
「おはよう、莉央ちゃん」
「また寝てないの?」
「やだな、寝たよちゃんと」
「いつもそうやって早く起きてるじゃん。あたしより先に寝ないくせに」
「量より質なんだよ」
「量も大事なんです!」
「質がよければ量は要りません」
「むぅ」
…………朝からかわいいからやめて。
「シャワー浴びる?朝食?」
「…………作ってあるとか言わないよね」
「え、だめだった?」
「この前も柳瀬仕事だったくせにサンドイッチ作ってくれてたじゃん」
「…………だめだった?」
「…………だめじゃない。嬉しい。柳瀬のご飯美味しいし」
「良かった」
「そうじゃなくて」
「うん?」
「柳瀬、あたしに構いすぎ。自分のこともっと大事にしてって話してるの」
「…………」
ん?
朝ごはんと今の話、関係性を見出せないんだが。
「朝ご飯作る暇あるなら寝て。ゆっくりして。自分もちゃんと寝て」